歌舞伎揚の歴史を深掘りすると、初期の形状に関する意外な事実が浮き彫りになります。現在流通している歌舞伎揚の多くは円形ですが、1960年の発売当初は「四角形」のみでした。四角い形状は歌舞伎劇場の舞台や座席(枡席)をイメージして設計されたものでした。
しかし、四角いせんべいには製造および流通上の大きな欠点がありました。角の部分が輸送中の衝撃で欠けやすく、袋の中で破片になってしまうトラブルが多発したのです。そこで天乃屋は改良を重ね、角を落とした「丸型」を導入しました。現在でもアソートパックや一部の企画商品で四角い歌舞伎揚が製造されていますが、主力製品が丸型になった背景には、現場の品質管理と歩留まり改善の努力がありました。
また、ネット上では「歌舞伎揚のひび割れは、焼いたせんべいを油に入れた急激な温度差で作っている」という俗説が散見されますが、これも誤解です。歌舞伎揚は一度乾燥させた生の米生地を直接油で揚げる「直揚げ」の手法を採っており、焼く工程は経ていません。生地に含まれる微細な気泡と水分が一気に気化する物理現象を利用して、あの独特のサクサク感を創出しています。