2013年10月に動画サイトへ投稿された『少女A』は、椎名もたが18歳のときに制作した鏡音リン歌唱のオリジナル楽曲です。公開当時もコアなボカロファンから高い評価を得ていましたが、この楽曲が真の意味で地球規模の社会現象となったのは、発表から7年以上が経過した2020年代初頭のことでした。
きっかけは、TikTokをはじめとするショート動画プラットフォームでのUGC(ユーザー生成コンテンツ)の爆発的な拡散です。海外のアニメファンやZ世代のクリエイターが、ノスタルジックな映像やサイバーパンク調のMAD動画、ヴェイパーウェイヴ的なビジュアルのBGMとして『Young Girl A』を使用し始めました。疾走感あふれるドラムンベースと8ビットライクなチップチューン、そしてどこか哀愁を帯びた浮遊感のあるメロディが、言葉の壁を軽々と飛び越えて海外ユーザーの感性を直撃したのです。
Spotifyのグローバルバイラルチャートでは連日上位にランクインし、YouTube上の非公式・公式転載動画を含めた総再生回数は億単位に達しました。一般的なネットのミーム消費であれば、ブームは数ヶ月で沈静化するのが常です。しかし『少女A』の場合、BGMとして知った海外リスナーが「この切なくも美しい曲を作った作家は誰なのか?」とオリジナルの背景を調べ、椎名もたという青年の早すぎる生涯や歌詞の深層に触れることで、一過性の流行から熱烈なリスペクトへと昇華していきました。
公式が2025年春、彼の誕生日である3月9日に始動させたトリビュート企画「You meet siinamota」は、まさにこの『少女A』を入り口として彼に出会った世界中の新しいリスナーに向けた「静かで確かな拠点」として立ち上げられたものです。「もう10年」であり「まだ10年」でもある時間の狭間で、彼の音楽は世界中の新しいリスナーの手によって今まさに息を吹き返しています。