放送部の門を叩いた新入生が、最初に直面する通過儀礼とも言えるのが歌舞伎十八番の台詞である「外郎売(ういろううり)」の丸暗記です。「拙者親方と申すは、お立会いの内に御存じのお方もござりましょうが……」という独特の言い回しを、息継ぎのタイミングや鼻濁音、無声化のルールを徹底的に叩き込まれながら、何百回と唱え続けます。部員同士の雑談中、誰かが冒頭を口ずさんだ瞬間に、反射的に全員で最後まで暗唱してしまう現象は、全国の部室で日常茶飯事に見られる光景です。
放送部の発声練習と滑舌へのこだわりは、一般的なイメージを遥かに超越しています。グラウンドを走る運動部を窓から見下ろしながら、壁に向かって腹式呼吸による「あー」というロングトーンを数分間キープし、「アエイオウ、アオイエウ」と口の開き方を鏡でミリ単位でチェックする日々。日常会話でも友人の「ざ行」や「ら行」の甘さが無意識に気になってしまい、内心で発音記号を思い浮かべてしまう職業病は、部員なら誰しも一度は経験するトラウマ的な癖と言えます。
さらに、大会前になると「アナウンス部門」と「朗読部門」の原稿をボロボロになるまで読み込みます。原稿用紙にはブレスの位置を示す斜線や、アクセントの下がり目を表す赤ペンがびっしりと書き込まれ、もはや現代アートのような様相を呈します。声を出す前のリップロールやタングトリルを教室で無意識に行い、周囲のクラスメイトをギョッとさせてしまうハプニングも、放送部員ならではの日常風景です。