自分が自分ではないように思える、慣れ親しんだ街並みが映画のセットのように嘘っぽく見えるといった現実感がない理由の根底には、精神医学で「解離」と呼ばれる脳のシャットダウン機能が存在します。極限の精神的負荷や過労に晒された際、脳は心への致命的なダメージを避けるため、知覚のボリュームを意図的に下げる防衛スイッチを入れます。これが離人症(現実感喪失症)の典型的なメカニズムです。
同時に生じる雲の上を歩くような感覚は、医学的には浮動性めまいに分類されます。回転性めまい(天井がぐるぐる回る耳の病気)とは異なり、身体の平衡感覚を司る前庭系と自律神経系の連携不全によって引き起こされます。長時間のスマートフォン利用によるストレートネックや、絶え間ない通知による交感神経の過緊張が重なると、脳の血流が偏調をきたし、思考力や記憶力が著しく低下するブレインフォグを併発します。
日本心身医学会や関係医療機関の報告によれば、いわゆるストレスめまいを訴えて受診する患者の多くが、真面目で責任感が強く、自らの疲労のサインを後回しにしてきた層に集中しています。心と身体が限界突破を警告するために発動させた最終防衛ライン、それが「現実感の喪失」と「ふわふわした浮遊感」の正体です。