自力呼吸ができないとなると、必然的に生じるのが「マグロは一体いつ、どのように眠っているのか」という疑問です。24時間365日泳ぎ続けるマグロにとって、人間のように全身の脱力や意識の完全停止を伴う睡眠は、文字通りの死を意味します。
近年のバイオロギング(海洋生物への小型記録計装着)調査や飼育下での生態観察により、マグロの睡眠の真相が徐々に明らかになってきました。彼らは「泳ぐ速度を落とし、脳の活動レベルを部分的に下げる」ことで休息を確保しています。
通常、日中の捕食活動時には時速20〜30km前後で巡航し、獲物を追う際には時速60〜80km超まで加速します。しかし夜間になると、回遊ルートの潮流に乗るなどして遊泳速度を時速5〜10km程度まで減速させます。この低速巡航時でもエラを通過する水流は確保されており、窒息しないギリギリの酸素代謝量を維持できる計算です。
さらに神経科学の分野では、マグロが渡り鳥やイルカと同様の「半球睡眠(左右の脳を交互に眠らせるメカニズム)」を行っている可能性が極めて有力視されています。左脳を休ませている間は右目で周囲の状況を警戒し、右脳を休ませている間は左目でバランスを保つという巧妙なシステムです。潜水調査を行うダイバーの証言でも、「夜間に遭遇するマグロは動きが緩慢で、光や接近に対する反応が明らかに鈍い」という報告が多数寄せられており、半ば覚醒、半ば休息という特異な状態で夜を越えていることが実証されています。