脳の血管が完全に閉塞する前に、多くのケースで危険なシグナルが点滅しています。日本脳卒中学会などの専門機関が啓発を続ける脳疾患の前兆症状の代表格が、「一過性脳虚血発作(TIA)」と呼ばれる病態です。脳の小血管に小さな血栓が一時的に引っかかり、数分から数十分で血流が再開して症状が消失する現象を指します。
救急搬送された患者の手記や臨床記録には、実に生々しい告白が残されています。
「前日の夕方、急に右手に力が入らなくなり、持っていた箸をポロリと落とした。でも3分ほどで元通り動くようになったため、『昨晩の残業疲れだろう』と軽く考えて就寝してしまった。翌朝、目が覚めた時には右半身が完全に麻痺し、言葉を発することすらできなくなっていた」
このような悲劇を回避するため、国際的に標準化されている脳梗塞初期症状チェックの基準が「FAST(ファスト)」の指標です。
- F(Face:顔の麻痺):「イー」と歯を見せて笑った際、片側の口角が下がり、顔の左右が非対称になる。
- A(Arm:腕の麻痺):両腕を手のひらを上にして前に突き出した時、片方の腕が自然と下がってくる。
- S(Speech:言葉の障害):ろれつが回らない、簡単な言葉が出てこない、相手の言っている意味が理解できない。
- T(Time:発症時刻の確認):以上の症状が1つでもあれば、迷わず時計を見て発症時刻を確認し、直ちに119番通報を行う。
また、日常的に自覚されやすい手足のしびれ脳疾患の鑑別ポイントは、「身体の片側(左右どちらか)だけに集中して現れるか」という点です。頚椎症や末梢神経障害では両手や指先全体がじんじんと痛む傾向がありますが、脳の視床や感覚野に障害が及んだ場合、右半身全体、あるいは左の口元と左手といった特異な偏り方を示します。