外科手術という人生の重大局面において、患者と医師の関係性は極めて繊細です。古くからある「お医者様にすべてをお任せする」という従属的なパターナリズム(父権主義)は、万一の合併症が生じた際に激しい不信感と後悔を生む温床となります。一方で、ネットの断片的な知識を振りかざして医師を最初から疑ってかかる敵対的なスタンスも、チームとの信頼構築を阻害します。
医療社会学および心理療法の見地から極めて重要なのが、患者と医療者が対等なパートナーとして健全な自立を保つ「心理的バウンダリー(境界線)」の確立です。執刀医は技術を提供するプロフェッショナルであり、患者は自らの身体の行く末を最終決定する自己決定者です。この役割の境界線を意識することで、後悔のない医療選択が可能になります。
自分がどのような心構えで執刀医と向き合うべきか、以下の判断基準を参考にしてください。
【納得して任せられる人の条件】
・術前説明において、メリットだけでなく合併症リスクや回復期間を現実的に受け止められる人
・疑問や不安があるとき、感情論ではなく「何が不安なのか」を具体的に質問できる人
・執刀医個人だけでなく、助手や看護師、麻酔科医を含めた「チーム医療」の力を信頼できる人
【一度立ち止まって慎重になるべき人の条件】
・「名医だから100%成功するはずだ」と完璧な結果を過度に期待し、リスクを否認している人
・執刀医との対話で違和感や不信感を抱いているにもかかわらず、遠慮して質問を飲み込んでしまう人
・医師からの説明をほとんど聞かず、「先生にお任せします」と結果の責任をすべて他者に委ねてしまう人
少しでも心に引っかかる違和感があるならば、手術日程を無理に急ぐことなく、納得がいくまで対話を重ねるか、正当な手続きを踏んでセカンドオピニオンを求める勇気を持ってください。