『百億の昼と千億の夜』を語る上で欠かせないのが、光瀬龍の原作小説と萩尾望都の漫画版における表現のコントラストです。このメディアミックスは、日本のポップカルチャー史における奇跡的なコラボレーションと評価されています。
光瀬龍の筆致は徹底してハードボイルドであり、乾いた詩情と圧倒的な無常観に満ちています。文章全体に漂うのは、どれほど足掻いても宇宙のエントロピー増大には勝てないという、冷徹なまでの諦念とニヒリズムです。登場人物たちも感情を極限まで削ぎ落とされた存在として描かれます。
対する萩尾望都の漫画版は、原作の骨格を寸分違わずトレースしながらも、そこに強烈な情念とリリシズムを吹き込みました。とりわけ両性具有の美神として描かれた阿修羅王のキャラクター造形は鮮烈で、孤独や苦痛、激しい怒りといった生身の感情が画面から溢れ出します。「わたしは阿修羅! 戦うものだ!」という魂の叫びをはじめとする名言の数々は、漫画版ならではのエモーショナルな引力を生み出しました。