下條正巳の真骨頂は、下町のおじさん役だけにとどまらない。1977年に公開された邦画の超大作『八甲田山』では、極限状態に追い詰められる極地での人間模様を見事に描き出し、作品に重厚な緊張感を与えた。雪中に消えゆく兵士たちの悲劇の中で、彼が放つセリフ一つひとつの重みは観客の胸を強く打つ。
同年に公開された金田一耕助シリーズの名作『悪魔の手毬唄』でも、物語のキーパーソンとして強烈な印象を残した。横溝正史独特の禍々しい世界観の中で、どこか哀切を帯びた人物像を作り上げ、ミステリーの深みを増すのに決定的な役割を果たした。心温まる日常劇から凄惨なサスペンスまで、どんなジャンルの映画であっても作品世界に自然に溶け込む変幻自在の演技力こそ、彼が名バイプレイヤーと称賛される最大の理由である。