水しぶきを激しく上げ、太ももがパンパンになるまで蹴り込んでいるにもかかわらず、まるで何かに引っ張られているかのように進まない現象には、明確な運動力学的根拠が存在します。多くの初級者が陥るバタ足が進まない理由は、筋力不足ではなく「みずから巨大なブレーキを作り出している点」にあります。
指導歴20年を超えるスイミングスクールのヘッドコーチは、講習会で次のように警鐘を鳴らしています。
「速く泳ごうと焦るあまり、水面を激しく叩きつけてしまう方が後を絶ちません。しかし、水泳は『水を後方に押し出す反作用』で進むスポーツです。水面の上で空気を叩いても推力はゼロですし、膝を深く曲げて水を前方へ蹴り出せば、自らバックギアを入れているのと同じなのです」
代表的なNG動作が「膝折れキック(自転車こぎキック)」です。初心者のバタ足で膝が曲がる原因は、水をつかもうとして無意識に大腿四頭筋(太ももの前側の筋肉)を過剰に収縮させてしまう点にあります。膝が直角近くまで曲がると、太ももが水流に対して垂直に立ちふさがり、進行方向に対して巨大な抵抗壁を形成します。さらに、曲がった足を伸ばす動作によって水が前下方に押し出され、結果として体が前進するどころか後退する力すら働いてしまうのです。
もう一つの決定的な要因が、足首を直角に固めてしまうロック状態です。足首が緊張で固まると、足の甲で水を捉えられず、足の裏やかかとで水を無造作に掻き回すだけになります。これでは推進力が発生しないばかりか、下半身全体が水底へと引きずり込まれ、息継ぎのたびに溺れそうになる悪循環を招きます。