楊端和を支える最強の戦士バジオウや、怪力を誇るタジフ、鳥のような俊敏さを持つシュンメンなど、山の民の部族構成は極めて個性的です。読者の間では「バジオウにも実在のモデルが存在するのか?」という議論が度々巻き起こります。
結論として、バジオウをはじめとする山の民の将兵は完全な作中オリジナルキャラクターであり、史実上のモデルとなる個別人物は記録されていません。しかし、彼らの人物造形には世界各地の人類学・民俗学的モチーフが巧みに落とし込まれています。
幼少期に部族を滅ぼされ、言語を失い獣として生きていたバジオウのルーツは、古今東西の「野生児伝説(狼少年やアヴェロンの野生児など)」や、北欧神話に見られる我を忘れて獣のように戦う狂戦士「ベルセルク」の生態をベースにしていると推察されます。楊端和によって人間性と「言葉」を取り戻し、彼女への絶対的な忠誠心を誓う姿は、読者の感情を激しく揺さぶる人間ドラマの結晶です。
作中に登場する主な部族と特徴は以下の通りです。
・鳥加族(ちょうかぞく):バジオウの出身部族。かつて内紛によって滅亡。
・タジフ一派:巨大な石球を軽々と振り回す怪力部族。素朴で仲間思いな気質を持つ。
・鳥氏族(ちょうしぞく):シュンメンが率いる、鳥の羽をあしらった装束と驚異的な跳躍力を誇る部族。
・フィゴ族:剛将ダントが率いる山界有数の大勢力。好色で野卑だが、突撃力は山界屈指。
・メラ族:カタリと妹キタリが率いる部族。死者を尊び、強靭な規律と高い剣技を誇る。
・猿手族(えんしゅぞく):絶壁を素手で登坂する特殊技術を持つ山岳工作部族。
彼らが素顔を隠す「仮面」の由来についても、文化人類学的な視点から非常に深い意味を持っています。古代のトーテム信仰において、仮面は自らの個我を消し去り、精霊や獣の神霊を宿すための宗教的儀式具でした。また、表情を一切読ませないことで敵軍に底知れぬ恐怖を与える心理兵器でもあります。血族同士の結束を強め、過酷な山岳地帯を生き抜くための「部族の精神的鎧」こそがあの仮面なのです。