夕日が沈みかける森や神社境内で一斉に湧き起こるひぐらしの大合唱。この鳴き声の主はすべて成熟したオスであり、その目的は自らの居場所をアピールしてメスを惹きつける「求愛行動」と、他のオスに対する「縄張り主張」にあります。
セミの仲間は種類ごとに活動する時間帯を巧妙に棲み分けています。アブラゼミやクマゼミが日中の強烈な日差しの中で活動するのに対し、ひぐらしは光に対する感受性が極めて高く、特定の薄暗さ(照度約100〜1,000ルクス前後)を感知した瞬間に発声スイッチが入る性質を持っています。これには主に2つの生物学的理由が存在します。
1つ目は「発音筋のオーバーヒート防止と適正体温の維持」です。セミは腹部にある発音膜を1秒間に数百回も振動させて音を出しますが、この運動は激しい熱を生み出します。日中の猛暑下で鳴き続けると体温が上がりすぎて生命の危機に瀕するため、気温が25℃前後に落ち着く時間帯を本能的に選んでいるのです。
2つ目は「天敵回避の戦略」です。昼間に飛び回る野鳥などの捕食者から身を隠しつつ、薄暗い森の奥で効率よく音を反響させることで、捕食リスクを最小限に抑えながら繁殖の機会を最大化しています。
なお、ひぐらしは「夕暮れ専属」ではありません。夜明け前の薄明るい時間帯にも同様の照度・気温条件が揃うため、山間部では早朝4時〜5時台にも盛大に合唱する姿が観察されます。「朝にも鳴く理由」は、彼らの体内時計と照度センサーが夕方と同じ環境条件を感知しているためです。