名作の音楽が生まれる背景には、常識を覆す大胆な決断があった。当初、久石譲はシンセサイザーを大胆に取り入れた現代的なアプローチを構想していたという。しかし、制作現場で剥き出しになる生々しい作画の熱量に触れ、方針を180度転換。フル編成のオーケストラによる肉体的な演奏で対峙しなければ、この映像の重圧には到底太刀打ちできないと直感したのだ。
主題歌に起用された米良美一の存在も、映画史に残る劇的な一手だった。宮崎駿監督が求めたのは、単に美しい歌声ではない。男でも女でもなく、子どもでも大人でもない、人間界の境界線上に佇むような神秘的な響きだった。米良の類まれなカウンターテナーは、もののけ姫ことサンが抱く孤独と、自然神の無垢な残虐性を完璧な形で具現化してみせた。
近年では、徳間ジャパンコミュニケーションズが誇るオリジナル音源のリマスターに加え、世界各地のトップオーケストラによる再演が続いている。ハイレゾ音源や最新の空間オーディオで聴き直すと、当時のスタジオで張り詰めていた演奏者たちの息遣いや、弦楽器の擦過音までもが鮮明に立ち現れる。時代を超えてアップデートされ続ける音響設計こそ、このスコアが不朽である決定的な証拠だ。