今なお受験生の間で語り継がれるのが、東大後期日程で課されていた「総合科目」の異次元の難易度と、門前払いを告げる第1段階選抜(足切り)の厳酷さです。過去問の傾向を振り返ると、それは大学受験の枠組みを遥かに逸脱した知の実験場でした。
理系の総合科目は、英語の専門論文を読ませた上で、物理・化学・生物・地学の垣根を越えた学際的な課題に対する論理的考察を数千字規模で論述させる形式などが頻出しました。数学的処理能力はもちろんのこと、膨大な情報から本質的な仮説を導き出す科学的リテラシーが問われ、予備校の模範解答作成チームですら意見が割れるほどの難問が並びました。文系の総合科目においても、歴史・哲学・社会学・言語学が複雑に絡み合った超長文を読み解き、現代社会が抱える倫理的ジレンマに対して自らの論理を破綻なく構築する高度な記述力が要求されました。
そして、その試験会場にたどり着くことすら至難の業でした。後期日程の募集人員は全学でわずか100名程度(文科約30名、理科約70名)。志願者が殺到するため、共通テストの前身である大学入試センター試験による第1段階選抜、いわゆる「足切りライン」は凄まじい高得点勝負となりました。年度によっては得点率90%(900点満点中810点以上)はおろか、得点率92%〜93%前後でようやく足切りを免れる年もありました。前期日程で東大を狙えるレベルの受験生であっても、センター試験でマークミスやわずかな失点があれば、総合科目を解く権利すら与えられずに涙を呑む過酷な世界だったのです。