相撲界の頂点を極めた男が、なぜ打撃の飛び交う格闘技のリングへ向かったのか。その最大のターニングポイントとなったのが、2003年大晦日の惨劇とも狂宴とも呼ばれた伝説の一戦だ。立ち塞がったのは、「暗黒肉弾魔人」として日本中を恐怖と興奮に陥れていたボブ・サップであった。
当時、民放キー局のTBSは、国民的番組『NHK紅白歌合戦』に真っ向勝負を挑むべく、前代未聞の超大型格闘技特番を企画していた。その目玉として浮上したのが横綱の参戦だった。準備期間はわずか数ヶ月。打撃の基礎すら十分に叩き込めない極限状態のなか、オファーを受けた背景には、単なる金銭的理由だけではない「横綱としての責任感」と「新たな挑戦への飢え」が存在していた。舞台裏では、過酷な体重調整と未知のルールに対する激しい葛藤が夜な夜な繰り広げられていたという。