警察庁が各都道府県警に通達する捜査規範や警視庁の実務現場において、逮捕という強制処分を行うには厳格な要件が課されている。刑事訴訟法が定める「逮捕の理由」と「逮捕の必要性」だ。犯罪の嫌疑があるだけでは逮捕状の請求要件を満たさない。被疑者が「逃亡するおそれ」または「罪証を隠滅するおそれ」が存在して初めて、身柄拘束の令状が発付される。
自発的に警察署へ姿を現したという客観的事実は、この「逃亡のおそれ」を根底から打ち消す強力なカウンター要素となる。自宅で捜査員の急襲を待つのではなく、自らの足で出頭する行動そのものが、捜査協力の意思表示とみなされるからだ。
現場の捜査員にとっても、強制捜査による逮捕手続きは膨大な書類作成と厳格な時間制限(48時間以内の送検)を伴う。被疑者が出頭し、素直に取り調べに応じる姿勢を示していれば、身柄を拘束しない「在宅事件」として捜査を進める合理的な動機が警察側に生じる。この力学を理解することが、社会生活を破綻させないための防波堤となる。