愛犬の口を開けた際、舌に黒いシミや斑点を見つけて青ざめる飼い主は少なくない。ネット上では「黒い変色は悪性腫瘍の証拠」といった不安を煽る情報も散見されるが、冷静な見極めが必要である。
まず理解すべきは、チャウチャウや甲斐犬の舌が青黒い遺伝的理由である。チャウチャウやシャー・ペイは、舌全体が青藍色や暗紫色であることが犬種標準(スタンダード)として定められている。また、日本犬の甲斐犬や北海道犬、紀州犬、柴犬などにも、舌の表面に境界明瞭な青黒いアザのような模様が現れる。これは「舌斑(ぜっぱん)」と呼ばれる遺伝的なメラニン色素沈着であり、皮膚にできるソバカスと同様、健康に何ら悪影響を及ぼすものではない。
では、良性の舌斑と病的な変色をどう区別すべきか。犬の舌に黒い斑点ができる理由を検証する際、注視すべきは「質感」と「時間的変化」である。
舌斑は粘膜と完全に一体化しており、手で触れても凹凸がなく、周囲のピンク色の部分と同じ滑らかさを持つ。一方で、警戒を要するのは「口腔内悪性メラノーマ(黒色腫)」をはじめとする腫瘍性病変だ。メラノーマの場合、平坦なシミではなくイボ状に盛り上がる、短期間(数週間〜1か月)で急速にサイズが拡大する、表面が崩れて出血する、あるいは独特の強い口臭を放つといった特徴を示す。黒い部分を見つけた際は、触診で硬さや隆起がないかを確認し、スマートフォンのカメラで定期的に拡大撮影して輪郭や大きさに変化がないかを照合することが決定的な鑑別手段となる。