全体の5〜10%を占める「遺伝性腫瘍」の中で、臨床上特に重要視される代表例が「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」と「リンチ症候群」です。
HBOCは、細胞のDNA修復を担う「BRCA1」または「BRCA2」という遺伝子に変異があることで発症します。この変異を持つ女性は、生涯で乳がんを発症する確率が最大70%以上、卵巣がんを発症する確率が最大40%前後に達すると報告されています。また、女性特有の病気と思われがちですが、男性であっても前立腺がんや男性乳がん、膵臓がんのリスクが通常より高まります。
一方、リンチ症候群は大腸がんをはじめ、子宮体がんや胃がん、卵巣がんなどのリスクが高まる遺伝性疾患です。DNAの複製ミスを修復する「ミスマッチ修復遺伝子」に変異があることで、若年期からポリープを介さずに急速に大腸がんが発生・進展しやすい特徴を持っています。
どちらの疾患も「常染色体顕性(優性)遺伝」という形式をとり、変異を持つ親から子へは男女を問わず50%の確率で遺伝します。ただし、「変異を受け継いだこと」と「実際にがんを発症すること」は同義ではありません。遺伝子変異を持っていても生涯がんを発症しない人もいれば、発症を遅らせる手立てが存在することも事実です。