幕末から明治初期にかけて創業した竹葉亭は、東京における鰻料理の歴史そのものと言っても過言ではありません。夏目漱石の小説『吾輩は猫である』にその名が登場するほか、永井荷風や芥川龍之介、谷崎潤一郎といった名だたる文豪の日記や随筆にも頻繁に描かれてきました。食通の知識人たちが創作の合間に暖簾をくぐり、舌鼓を打った空間には、現在も古き良き東京の情緒が色濃く残されています。
竹葉亭が長きにわたり支持される最大の理由は、徹底した江戸前仕立ての職人技にあります。関西風が腹開きで蒸さずに地焼きするのに対し、竹葉亭の鰻は背開きにして白焼きにした後、じっくりと蒸しを入れ、最後に秘伝のタレをつけて備長炭で焼き上げます。余分な脂を落としながらも旨味を閉じ込めるこの技法により、箸を入れた瞬間にほろりと崩れるほどの柔らかさと、上品な口どけが生まれます。
また、鰻本来の脂の甘みと香ばしさをダイレクトに堪能できる白焼きと、創業以来継ぎ足されてきたキレのある辛口タレを纏った蒲焼の違いも見逃せません。白焼きは山葵醤油でさっぱりといただくことで職人の焼きの技術が露わになり、蒲焼では米とタレ、鰻が三位一体となった濃厚な調和を楽しめます。