なぜ歌舞伎役者は見得で寄り目をする理由とは?歴史と演出の真相を解剖

なぜ歌舞伎役者は見得で寄り目をする理由とは?歴史と演出の真相を解剖

なぜ歌舞伎役者は見得で寄り目をする理由とは?歴史と演出の真相を解剖についての真相をお届けします。

歌舞伎の舞台で役者が見得を切る際、両目の黒目を中央に寄せる独特の表情を作ります。この特徴的な目の使い方には、単なる誇張を超えた明確な宗教的起源と、緻密に計算された視覚心理学的なメカニズムが存在します。

歴史的なルーツを辿ると、江戸時代初期に初代市川團十郎が創始した「荒事(あらごと)」に行き着きます。團十郎家(成田屋)は不動明王への信仰が極めて篤く、成田山新勝寺との深い結びつきの中で芸を磨いてきました。不動明王の尊像に見られる「天地眼(てんちがん)」――すなわち右目で天を睨み、左目で地を睨むという異形の忿怒相(ふんぬそう)を、生身の人間の肉体で模倣・表現した技法が寄り目の原型です。超人的な神仏の力を身に宿し、悪霊を調伏する祈祷的エネルギーが、この瞳の構えに込められています。

さらに、現代の視覚心理学の観点からも、この寄り目には観客を惹きつける驚くべき機能があります。2,000人規模の大劇場である歌舞伎座において、双眼鏡を持たない客席後方の観客に対しても「役者が今、どこを見つめ、何を睨み据えているのか」を一瞬で直感させる効果です。通常の両目では視線が客席全体へ拡散してしまいますが、黒目を意図的に寄せることで、観客一人ひとりが「自分の眉間を射抜かれた」と錯覚するほどの強烈な視線集中を生み出します。映像でいうところの「急速なカメラのクローズアップ」を、役者は自らの眼筋の制御だけで実現しているわけです。

歴代の市川團十郎が自著や手記で残している言葉にも、その過酷な鍛錬がうかがえます。「見得の瞬間に目を寄せるのは、客席の隅々にまで気を張り巡らせた末に、自分の魂を舞台中央の一点へ凝縮させる作業である」と語り継がれており、単なる顔芸ではなく、全身の筋肉と精神を極限まで緊張させた結果として表れる必然の姿なのです。

池田 達也
著者

池田 達也

Webメディアでの編集・執筆歴10年。読者の好奇心を刺激するストーリー作りを心がけています。