本作のキャスティングにおいて、ファンのみならずアニメ業界関係者からも驚嘆の声が上がったのが、「1話限りの敵や脇役に主役級のレジェンドを配置する」という贅沢な布陣です。第1話で炭治郎に倒される「お堂の鬼」に緑川光、最終選別の「手鬼」に子安武人、浅草編の「沼の鬼」に木村良平、さらには蜘蛛の鬼(兄)に森久保祥太郎など、他作品であれば単独で主役を張る看板声優が序盤から惜しみなく登用されました。
一般的に、これだけの顔ぶれを揃えれば制作費が破綻するのではないかと考えられがちです。しかし、そこには日本の声優業界特有の報酬体系である「日本俳優連合(日俳連)のランク制」が深く関係しています。声優のアニメ出演料は、キャリアや人気に応じて「30分枠のアニメ1本あたり1万5,000円〜4万5,000円程度」という基本枠が定められており、キャリアを積んだ大御所であっても、一般的な商業映画の俳優のような数千万円単位のギャラが発生するわけではありません。
もちろん最高ランクの「ノーランク(出演料を個別に交渉するベテラン)」も存在しますが、アニメ制作の予算枠そのものが青天井になる仕組みにはなっていません。つまり、鬼滅の刃が豪華声優陣を実現できた理由は単なる「潤沢な資金力」だけではなく、「短時間でキャラクターの狂気や背景の哀哀を演じ分けられる圧倒的な技量を持った役者を、音響監督とプロデューサーが的確に指名・配置した」という、卓越したクリエイティブ判断によるものです。このキャスティングの妙が、登場時間がわずか数分の敵キャラクターにまで強烈な実在感と説得力を与え、物語全体の密度を飛躍的に高めました。