外科的アプローチである性別適合手術(SRS)は、不可逆性が最も高い治療ステップです。トランスジェンダー男性の手術は主に「乳腺切除」「子宮卵巣摘出」「陰茎形成」の3つに分類されます。
まず生活上のストレスを劇的に軽減させるのが乳房の縮小・切除です。乳腺切除手術費用は術式やバストのサイズによって大きく異なります。乳輪の周囲をわずかに切開して乳腺のみを取り出す「乳輪周囲切開法」は傷跡が目立たない利点がありますが、皮膚の余剰が多い場合は適応できません。皮膚ごと大きく切除して乳輪・乳頭を再移植する「U字切開法」や「アンカー切開法」では、胸部に横一文字の傷跡が残ります。相場は自費診療で約60万〜120万円です。
続いて、体内の女性ホルモン分泌源を断ち、月経を恒久的にストップさせるのが子宮卵巣摘出手術です。開腹手術、腹腔鏡下手術、あるいは膣式手術などの術式があり、入院期間は5日〜1週間程度、費用相場は約80万〜150万円にのぼります。陰茎形成術については、前腕や大腿から皮膚や血管を移植する大掛かりな手術となり、合併症リスクや費用の莫大さ(数百万円規模)から、日本国内で受ける人は極めて限定的です。
ここで多くの当事者が直面するのが、性別適合手術保険適用の極めて厳しい現実です。2018年に性別適合手術が公的医療保険の対象として認められたものの、保険適用で手術を受けるためのハードルは2026年現在も依然として高いままです。
最大の障壁は「保険診療と自由診療の併用(混合診療)の禁止」にあります。ホルモン治療を一度でも自費で受けている場合、その後の手術を保険適用で行うことが原則として認められず、全額自己負担となるケースが相次ぎました。さらに、国が指定する施設基準を満たした大学病院等の医療機関が全国でも極めて少なく、数年待ちの待機期間が発生していることから、実質的には多くの当事者が高額な自費診療を選択せざるを得ない構造が続いています。