アーティスティックスイミング界をいま最も揺るがしているのが、2023年から段階的に完全施行された新ルールにおける採点基準の抜本的改革です。かつてこの競技は「審判の主観」や「過去の実績による序列(いわゆる強豪国優遇)」が強く働き、競技前から結果がある程度予測できてしまうという批判に長年晒されてきました。その不透明さを粉砕するために導入されたのが、フィギュアスケートの採点法に近い数値化システムです。
この大改革の心臓部となるのが、難易度申告(DD=Degree of Difficulty)です。各チームは演技前に、水中で行う足技(ハイブリッド)やリフトの回転数、脚の開度、動作の接続などを記した「コーチカード」を提出します。技の構成に応じてあらかじめ数学的に難易度係数(DD値)が算出され、どれだけ高い難易度に挑戦するかが数値として白日の下に晒されます。
しかし、このシステムには選手たちを震え上がらせる冷酷な罠が仕掛けられています。それが「ベースマーク」と呼ばれる最低評価への転落ペナルティです。事前申告した通りの角度や回転数、同調性を1ミリでも欠いたとテクニカルコントローラー(TC)に判定されると、その技の難易度係数が一瞬で基礎点(多くは0.5点という極小値)へと強制格下げされます。どんなに華麗に泳ぎ切ったとしても、ベースマークを複数回取られれば合計得点が20点〜30点も消し飛び、メダル圏内から一瞬で下位へと転落します。現に、近年の主要な大会結果速報では、優勝候補がベースマーク連発で予選落ちを喫する波乱が日常茶飯事となっています。
さらに、チーム種目において観客を熱狂させているのがアクロバティックルーティンの新設です。かつてのハイライトルーティンを進化させたこの種目では、水底から選手をカタパルトのように跳ね上げ、空中での3回転ひねりや宙返りを連発します。サーカスさながらの滞空時間と着水の美しさが求められ、もはや「水泳」の枠を完全に超えた超人的エンターテインメントへと昇華しています。