近年、SNS上では「今夜は奇跡の満月」「ピンク色に輝く月が見える」といったキャッチーな投稿が拡散され、トレンド入りすることが恒例となっています。しかし、現場の天文学者やプラネタリウム解説員の間では、過度な商業的ネーミングによる誤解の蔓延が懸念されています。
典型的な誤解が、「ピンクムーン」や「ストロベリームーン」と呼ばれる米国由来の農事暦(オールド・ファーマーズ・アルマナック)の愛称です。これは米国の先住民族が季節の移り変わりを把握するために、その時期の風物詩(4月なら野花、6月ならイチゴの収穫期)を満月に名付けた文化的名残に過ぎません。月自体が物理的にピンクや鮮烈な赤色に変化するわけではないのです。
例外的に月が赤みを帯びるのは、月の出時刻直後の地平線近くにある場合、あるいは地球の影に月が完全に入り込む月食の観察時間に限られます。地平線近くで赤く見える理由は、朝日や夕日が赤いのと同様、大気中を通過する光のレイリー散乱による物理現象です。青い光は大気で散乱され、波長の長い赤い光だけが観測者の瞳に届くためです。
また、ネット上の一部コミュニティで語られる「スーパームーンが地球に大地震を引き起こす」「満月の夜は犯罪率が激増する」といったオカルト的言説も、統計学的・地球物理学的な裏付けは存在しません。潮名による海水面の昇降(潮汐力)は強まるものの、地殻変動を直接誘発する決定的な証拠はないと防災科研や地震学者によって繰り返し証明されています。神秘性を楽しむことと、科学的事実を混同しない冷静な視点が求められます。