シーサーペントの実在をめぐる議論で、学術関係者やUMA探求家の双方が避けて通れないのが、北米太平洋岸で頻発する未確認生物「キャディ(キャドボロサウルス・ウィルシ)」の記録と、世界各地で撮影された写真の信憑性です。
カナダ・ブリティッシュコロンビア州のキャドボロ湾周辺では、1930年代から現在に至るまで数千件に及ぶキャディの目撃情報が蓄積されています。特に1937年10月、同州ハイダ・グワイ(旧クイーンシャーロット諸島)の捕鯨基地ナーデン・ハーバーで、マッコウクジラの胃袋から引きずり出されたという「謎の遺骸」は、世界中を騒然とさせました。
解体作業員たちの証言によれば、胃から出てきた生物は体長約3メートル、ラクダに似た頭部、細長い胴体、そして尾びれと前ヒレを備えており、当時の現場写真が残されています。捕鯨基地の所長や目撃者たちは口を揃えて「これまで何万頭ものクジラを解体してきたが、こんな生物は一度も見たことがない」と証言し、標本はビクトリアの州立博物館へ送られたものの、保管途中で紛失するという不可解な結末を迎えました。
ネット上のコミュニティや愛好家の間では、この「ナーデン・ハーバーの遺骸写真」こそがキャディ実在の決定的証拠として語り継がれています。しかし、現代の海洋古生物学者や解剖学者チームによるデジタルリマスター写真の解析では、「ヒゲクジラ類の胎児」または強酸の胃液によって消化され筋肉が削ぎ落とされた小型鯨類の残骸である可能性が濃厚と結論付けられています。
また、1964年にオーストラリアのフック島沖でロバート・ル・セレックが撮影した有名な「巨大オタマジャクシ状の黒い怪物写真」についても、後に撮影者本人の知人らによる暴露や映像解析の進展により、ビニールシートと砂袋を用いた巧妙なフェイク(演出写真)であったことが決定的となっています。写真というメディアが持つ「客観性の罠」が、怪異の実在神話を過剰に増幅させてきた側面は見逃せません。