本作が公開から20年以上経過してもネット上で語り草となっている最大の要因は、ギャグの瞬発力と作画のキレにあります。特に鑑賞者の脳裏に焼き付いて離れない3大名場面を検証します。
筆頭に挙げられるのが、追手を振り切って熱海行きを決意する場面で突如挿入される伝説の劇画調名シーンです。それまでのデフォルメされた記号的な絵柄から一転、池上遼一作品や昭和のハードボイルド劇画を彷彿とさせる緻密な陰影と劇画フェイスへと野原一家全員が変貌。「今夜は……焼肉だ!」と決意を固めるカットは、水島努監督の卓越したギャグセンスと作画陣の技術の無駄遣いが生み出したアニメ史に残る名ショットとして、現在もSNSのミームとして流通しています。
中盤で強烈なインパクトを残すのが、野原ひろしの女装シーンとトラック運転手・下田との狂乱劇です。ヒッチハイクのためにみさえの服を着て女装し「サクラ」と名乗ったひろしに対し、車を停めたトラック運転手の下田(声:田原アルノ)は、あろうことかひろしに一目惚れしてしまいます。「男には興味ねえ」と言いながらも、女装したひろしの一挙手一投足に赤面し、激しい情熱を燃やす下田の姿は、子供向けアニメの枠を完全に踏み越えたカルト的な笑いを生み出しました。
さらに、みさえのママチャリによる驚異的な坂道爆走、しんのすけのセグウェイアクション、ひまわりを乗せたベビーカーのハイスピードチェイスなど、全編にわたって物理法則を無視したアクションが連続します。脇を固める声優キャスト陣の演技も凄まじく、レギュラー声優陣(矢島晶子、ならはしみき、藤原啓治、こおろぎさとみ)の阿吽の呼吸に加え、敵幹部役の徳弘夏生やゲスト出演の華原朋美など、豪華な顔ぶれが作品のエネルギーを支えています。