給与面での不満以上に離職率を跳ね上げている主因が、小規模組織特有の密室性です。日本歯科衛生士会が実施した就業実態調査や退職理由の分析において、常に上位を占めるのは「院長との人間関係」「職場の雰囲気が悪い」「スタッフ間の派閥争い」といった対人ストレスです。
SNSやネット掲示板(5ちゃんねる、知恵袋、転職口コミサイト)における歯科医院の人間関係に関するネットの反応をテキストマイニングすると、以下のような生々しい告白が膨大に蓄積されています。
「チェアサイドで院長が機嫌を損ねると、器具をトレーに叩きつけるように置く」「古参のお局衛生士に自己流のルールがあり、手順が少しでも異なると露骨な無視や陰口が始まる」「受付と衛生士の派閥に挟まれ、毎日胃が痛い」。
こうした現象は、産業組織心理学において「閉鎖的小集団における権力の非対称性」として説明されます。一般的な一般企業であれば、人事部や他部署への異動、内部通報制度といった緩衝材が存在します。しかし、歯科医院の多くは院長1人が人事権・評価権・解雇権をすべて独占し、スタッフも5〜10名程度の極めて限られた空間で1日中顔を突き合わせます。一度人間関係のバランスが崩れ、心理的安全性が喪失されると、スタッフには「我慢するか、辞めるか」の2者択一しか残されません。これこそが、歯科衛生士が辞める決定的な理由の根底にある構造的暴力です。