こうした従来の常識を根底から覆し、独自の漢字学を確立したのが、巨星・白川静博士である。白川博士は著書『字統』の中で、漢字のルーツを単なる生活道具や自然の模倣ではなく、古代人の「呪術と祭祀」の世界観に求めた。
白川説によれば、「献」「伏」「器」「類」といった犬を部首に持つ文字の多くは、ことごとく祭祀や生贄の儀式に関連している。例えば「献」は犬を煮て神に捧げる器を意味し、「伏」は犬のように伏して潜む、あるいは魔を払うために犬を埋める行為に由来する。東洋の文字が持つ本来の恐怖と神聖さを白川は次々と暴いてみせた。彼が提示した体系は、世界の語源学研究にとっても類を見ない衝撃的な遺産として今日まで語り継がれている。