太田三郎氏は、建築の内装工事を手がける太田工務店を営む腕利きの職人だった。自らの手で空間を作り上げるストイックな作業に情熱を注ぐ一方で、彼の心には常に文学や芸術への深い敬愛が満ちていた。自宅の書斎には、宮沢賢治や中原中也、太宰治といった作家の文学全集や詩集、美術書がびっしりと並んでいたという。
決して子供に読書を強要することはなかったが、父が本に向き合う背中や、ふと口にする詩的なフレーズは、幼い太田光の心に深く刻まれた。物静かで職人気質な父親が部屋の灯りの下で静かにページをめくる姿。それこそが、後に希代の表現者となる息子の原風景となったのだ。