ふたりの絆が真に鍛え上げられた場所、それは演劇の聖地・帝国劇場であった。森光子さんの代名詞であり、通算2017回という驚異的な金字塔を打ち立てた舞台演劇『放浪記』。この歴史的演目の舞台裏で、東山氏は常に森さんの凄絶なプロ意識を間近で目撃していた。
森さんは、どれほど体調が苦しい時であっても客席の前に立つと劇中の女流作家・林芙美子その人へと変貌を遂げた。その鬼気迫る演技への執念と舞台への献身を、東山氏は貪欲に吸収していく。舞台演劇における姿勢や立ち振る舞い、観客に対する誠実さ——森さんが教え込んだのは単なる演技の技術ではなく、表現者として一生を捧げる覚悟そのものだった。帝国劇場の楽屋口で見せたふたりの気品あるやり取りは、今も劇場のベテランスタッフたちの間で語り継がれている。