阿修羅像の繊細な表情や細身のプロポーションを可能にしたのは、奈良時代に頂点を極めた「脱活乾漆造(だっかつかんしつづくり)」という高度な彫刻技法です。
脱活乾漆造の工程は極めて複雑で、莫大なコストと時間を要しました。まず粘土でおおまかな像の原型を作り、その上に麻布を漆で何層も貼り重ねて外殻を形成します。漆が完全に乾燥して硬化した後、背中などを切開して内部の粘土をすべて掻き出し、代わりに木製の補強骨組み(心木)を組み込みます。その表面に「木屑漆(こくそうるし)」と呼ばれるペースト状の漆を盛り上げて目鼻立ちや衣の襞(ひだ)を微細に整え、最後に箔や顔料で彩色を施します。
内部が空洞であるため、像高153.4cmという等身大のサイズでありながら、総重量は約15kg前後と驚くほど軽量です。木彫では不可能な極細の腕や絶妙な重心バランスを実現できたのは、この技法ならではの強みです。また、この軽さこそが、興福寺を幾度も襲った大火災の際、僧侶や民衆の手によって即座に運び出され、千三百年もの間失われずに現代まで伝わった決定的な理由でもあります。