原宿・表参道エリアといえば、ファッション旗艦店や人気カフェがひしめく活気あふれる街並みを思い浮かべる方が多いはずです。しかし、ラフォーレ原宿の裏手に位置する太田記念美術館の門をくぐると、外界の騒音は完全に遮断されます。館内には落ち着いた和の風情が漂い、地下階には見事な枯山水の石庭が配されているなど、日本美術を鑑賞するための最高の舞台装置が整えられています。
この美術館の設立母体となったのは、福岡出身の実業家であり卓越した審美眼を持っていた五代 太田清蔵(1893–1977)の個人コレクションです。明治以降、ジャポニスムの波に乗って大量の浮世絵が欧米へと流出していく現実に危機感を抱いた太田清蔵は、半世紀以上にわたって私財を投じ、最高水準の作品を日本国内に留めるべく奔走しました。その遺志を継いで1980年に開館した同館は、まさに「日本文化の防波堤」として築かれた歴史を持ちます。
海外からの旅行者が「東京で最も感動したアート体験のひとつ」と口を揃える理由は、単に名画が並んでいるからだけではありません。肉筆画の繊細な筆致や、木版画の凹凸(空摺りなど)まで間近で見極められるよう緻密に計算された展示ケースとライティング設計が、鑑賞者を江戸の職人技の深層へと引き込むのです。