他人の財産を勝手に使い続けていれば、通常は不法行為として損害賠償や明け渡しを求められます。それにもかかわらず、なぜ民法は他人の土地の所有権取得を認めているのでしょうか。法学上、取得時効制度には3つの本質的な存在理由があります。
第1に「永続した事実状態の尊重」です。長期間にわたり平穏に土地を占有し、そこを基盤として生活や経済活動が築き上げられている場合、今さら過去の権利関係を蒸し返して現状を覆すことは社会経済的に大きな混乱を招きます。法律は、長年続いた事実上の状態をそのまま正当な権利関係として追認する道を選びます。
第2に「権利の上に眠る者は保護せず」という法格言です。自らの所有地であるにもかかわらず、10年・20年もの間、他人に占有されている状態を放置し、何の権利行使も行わなかった土地所有者は、法律上の手厚い保護に値しないと判断されます。
第3に「過去の立証困難の救済」です。何十年も前に売買契約を結んで土地を取得したものの、契約書を紛失したり登記を怠ったりしていた場合、真の所有者であることを証明するのは極めて困難です。取得時効は、正当な権利者を立証の負担から救済するためのセーフティネットとしても機能しています。