首里城火災における最大の疑問点として多くの人が挙げるのが、「現代の鑑識捜査技術をもってして、なぜ出火原因が『原因不明』で幕引きとなったのか」という点です。一部で「誰かを庇うために隠蔽したのではないか」という憶測を呼ぶ土壌となりましたが、現場の実態を紐解くと、科学的・法医学的な物理的限界が浮き彫りになります。
那覇市消防局および沖縄県警、さらに総務省消防庁消防研究センターが総力を挙げた現場検証により、首里城の正殿内部、とりわけ1階北東側が出火元である事実は早期に絞り込まれました。このエリアには延長コードや配電盤、各種電気機器が存在しており、当初から電気系統トラブルによる出火が極めて有力視されていたのです。
しかし、捜査機関が決定的な結論を下せなかった理由について、科学捜査研究所関係者は現場の過酷さを次のように吐露しています。
「正殿は数百年の伝統工芸を再現した大量の乾燥木材と漆(うるし)で覆われており、一度着火すると超高温の火炉状態と化した。鑑識班は約30点に及ぶ電気配線や分電盤の残骸を回収し、顕微鏡レベルで電線の溶融痕を分析したが、火災熱で溶けた『2次痕』なのか、ショートが原因で発火した『1次痕』なのかを判別する境界線が超高熱によって完全に消失していた」
日本の刑事捜査および消防法上の調査実務において、状況証拠だけで出火原因を断定することは許されません。首里城火災の調査報告書(消防庁)においても、電気機器からの出火の可能性を強く示唆しつつも、「物証の熱変形が極度に進んでおり、火元機器の特定には至らない」と記載せざるを得なかったのが真相です。「隠蔽」ではなく、「科学的証拠が灰燼に帰したため、断定を避けた厳格な司法・行政手続きの結果」が出火原因不明の理由でした。