主演を務める松重豊のドキュメンタリー的な食演技は、徹底した現場主義から生まれている。撮影当日は朝から絶食状態で挑み、カメラが回る瞬間に初めて本気で料理と対峙する。セリフを覚えること以上に、目の前の料理をいかに美味しく、いかに真摯に味わうか。その愚直な姿勢が画面を通じて観客に伝わるのだ。
制作チームのロケハンも妥協を許さない。何十軒もの店舗を実際に食べ歩き、店主の人柄や店の佇まい、そして何より「嘘のない味」を確認した上でオファーを出す。劇中で五郎が発する「こういうのでいいんだよ」という心の声は、過度な演出を排除し、ありのままの食体験を尊重する現場の流儀そのものを凝縮している。