深夜帯のテレビカルチャーを築き上げた『孤独のグルメ』の孤高な食欲、そして『深夜食堂』が描いた人間模様のペーソス。本作『僕とうどんとかつおだし』は、それらの名作が耕してきた土壌を受け継ぎながら、全く異なる地平へと踏み出している。これまでの作品が「食べる行為」そのもののカタルシスを描いてきたのに対し、本作は「食べる前の記憶と出汁を引く時間」にカメラを据え続けた。
単なるグルメドラマの枠組みを完全に解体し、濃厚なヒューマンドラマへと昇華させた構成は圧巻だ。一杯のうどんをすする音、喉を通り抜ける熱さ、胃の腑に落ちた瞬間にあふれ出す主人公の涙。セリフを極限まで削ぎ落とし、咀嚼音と環境音だけで登場人物の孤独を描き切る手法は、食をテーマにした映像作品の新たなスタンダードを決定づけた。