事件発生当初、捜査幹部や科学捜査班が強く疑っていたのは、旧日本陸軍が誇る特殊兵器の研究機関、すなわち関東軍防疫給水部(731部隊)や登戸研究所の関係者による関与であった。犯行に使われた毒物は、通常の青酸カリとは異なり、効果が出るまでに数秒のタイムラグを設けるよう特殊調合された可能性が高かった。これは、9式アセトンシアノヒドリン(通称ニプロ)などの軍用毒物特有の性質と一致していた。
犯行の際の手際、毒物を「2段階に分けて飲ませる」という緻密な技法は、人体実験の知識や臨床経験を持つ者でなければ不可能な芸当であった。実際、初期の捜査本部は元731部隊員や登戸研究所のOBらを中心に追及を進めており、犯人像は軍の闇に触れる人物へと急速に絞り込まれつつあった。しかし、その綿密な追跡はある力によって突如として断ち切られることになる。