密室、仮面、そして背徳の掟。本作の構図を見てスタンリー・キューブリックの遺作『アイズ ワイド シャット』を想起しない映画ファンはいないだろう。だが、90年代末のニューヨークを描いたあの大作がどこか幻想的な寓話だったのに対し、本作が突きつける皮膚感覚はもっと冷酷で湿り気を帯びている。肉体の売買と情報工作が一体化した現代の搾取構造を、息苦しいほどのクローズアップで定着させた。
ジャンル映画としてのエロティック・スリラーは、ここ十数年の邦画界においてほぼ死滅したと見なされてきた。コンプライアンスの波に抗えず、無難な恋愛劇や記号的なサスペンスへと退潮していったからだ。しかし、この作品はそうした自主規制の防波堤を嘲笑うかのように決壊させる。生々しい官能性は単なる観客へのサービスではなく、権力欲に憑りつかれた人間の末路を冷徹にあぶり出すための冷たいメスとして機能している。