静岡県富士山世界遺産センターの正面に立った瞬間、誰もが息を呑むのが、すり鉢状に広がる巨大な木格子コーンの存在です。プリツカー賞受賞歴を持つ世界的建築家・坂茂(ばん・しげる)氏が手掛けたこの建造物は、富士山ヒノキを約8,000ピース編み上げて作られた「逆円錐形」の構造体を特徴としています。
設計コンペにおいて坂氏が掲げた着想の根底には、「富士山そのものを模倣した建物を建てても、本物の神々しさには到底及ばない」という深い敬意がありました。あえて大地に向けてすぼまる「逆さ富士」の形態を採用し、建物の前口に広がる浅い水盤にその姿を映し込ませることで、水鏡の中に「正立した富士山」が立ち現れるという緻密な空間トリックを完成させています。晴天の日には、水面に揺れる木の富士山と、遥か後方にそびえる本物の霊峰富士が一つの視野に収まり、息を呑む景観を生み出します。
建物内部に入ると、全長約193メートルの緩やかな螺旋スロープが最上階の4階まで続いています。この動線こそが「常設展示と富士山登頂体験」の核となる仕掛けです。壁面に投影される精緻なタイムラプス映像は、海抜0メートルの駿河湾から始まり、樹海、森林限界、荒涼とした溶岩地帯、そして山頂の御来光へと標高順に移り変わります。展示室を巡ること自体が、富士登山道の標高差を疑似体験する身体的プロセスとして緻密に計算されている点に、現代建築としての卓越した独創性が宿っています。