家族の中で一人だけ感染する現象の背後には、生来の遺伝的要因が大きく関わっています。特に冬季に猛威を振るうノロウイルスにおいては、ノロウイルスにかかりやすい血液型と遺伝子の関係が国立感染症研究所などの研究で実証されています。
鍵を握るのは、唾液や消化管粘膜の表面に血液型抗原を分泌する「FUT2(フコース転移酵素2)遺伝子」です。この遺伝子が正常に機能している「分泌型(シークリーター)」の人は、日本人の約80%を占めており、腸管粘膜にウイルスの足場となる抗原が存在するためノロウイルスに感染しやすい傾向を持ちます。一方で、残る約20%の「非分泌型(ノン・シークリーター)」の人は、ノロウイルスの主要な遺伝子型(GII.4など)が結合しにくく、ウイルスが体内に入っても発症しにくいという防御特性を持っています。
さらにABO式血液型による親和性の違いも報告されており、O型の人は特定のノロウイルス株に対して結合力が高く重症化しやすい一方、B型の人は比較的感染しにくいというデータが示されています。これが「胃腸炎になりやすい体質」として自覚される生理的根拠の一つです。
しかし、遺伝的素因だけで全てが決まるわけではありません。もう一つの決定打となるのが、胃酸という「第一の関門」の強さです。強い酸性(pH1〜2)を保つ胃液は、本来であれば侵入した細菌やウイルスの多くを死滅させます。しかし、慢性胃炎やピロリ菌感染、制酸薬(胃薬)の長期常用、あるいは加齢によって胃酸の分泌能力が落ちている人は、病原体を無傷のまま腸へと通過させてしまいます。これが、大人になってから胃腸炎を繰り返す理由として医療現場で頻繁に指摘される見落とされがちな盲点です。