胃腸炎を巡る情報の中には、良かれと思って実践した行為が病態を深刻化させる危険な俗説が蔓延しています。特に救急外来を訪れる患者の多くが陥っている「2大誤解」を是正しなければなりません。
最大の誤解は、「下痢になったらすぐに市販の下痢止め(止瀉薬)を飲むべき」という判断です。下痢は、体内に侵入した毒素やウイルスを一刻も早く体外へ押し出そうとする防御反応です。ロペラミド塩酸塩などの強力な下痢止めで無理に腸の動きを止めてしまうと、病原菌が腸管内に長くとどまり、腸壁を深く傷つけたり毒素が血流に乗って全身に回るリスクが生じます。胃腸炎の市販薬と受診の目安として、初期の激しい下痢に対して自己判断で下痢止めを使うのは厳禁であり、整腸剤(ビフィズス菌や酪酸菌製剤)にとどめるのが鉄則です。
もう一つの致命的な盲点は、アルコールスプレーによる消毒への過信です。ノロウイルスやロタウイルスは「ノンエンベロープウイルス」と呼ばれ、脂質の膜を持たないため、一般的なアルコール消毒薬がほとんど効きません。感染性胃腸炎の予防対策や家族内感染を防ぐ消毒法において絶対的な威力を発揮するのは、次亜塩素酸ナトリウム(家庭用塩素系漂白剤の希釈液)です。
吐しゃ物や便で汚染された床やトイレは、濃度0.1%(1,000ppm)、ドアノブや手すりなどの日常的な接触箇所は濃度0.02%(200ppm)の希釈液を用いて拭き取り、その後に水拭きを行う必要があります。スプレーで噴霧するとウイルスを空気中に舞い上がらせて吸入感染を招くため、必ず使い捨てペーパー等に浸して「外側から中心に向かって静かに拭き取る」手順を遵守しなければなりません。