ビジネスパーソンが最も頭を抱えやすい疑問が、どうぞご自愛くださいは目上に使えるかという点です。結論から言えば、言葉の成り立ちとして目上の人に使うこと自体は失礼にあたりません。しかし、文末の「ください」は丁寧表現であるものの文法上は「命令形」に属します。そのため、形式や敬意の深さに厳しい取引先の役員や直属の上司に対しては、「指示を出された」と不快感を持たれるリスクがゼロではありません。目上の相手へ送る際は「どうぞご自愛専一にお過ごしくださいませ」や「どうぞご自愛くださいますようお願い申し上げます」といった、よりへりくだった丁寧な形に昇華させるのが現場の定石です。
さらに日常業務で最も頻発している誤りが、お体にご自愛くださいがNGな理由を知らずに使ってしまうケースです。「自愛」という言葉自体に「自分自身の体を大切にする」という意味が内包されています。したがって、「お体に」を前置してしまうと「自身の体に、自身の体を大切にしてください」という無意味な重複表現(重言)に陥ります。「頭痛が痛い」「危険が危ない」と同列の日本語の破綻であり、文章のプロや教養あるビジネスパーソンからは、マナーの浅さを即座に見抜かれてしまいます。
そしてもう一つ、絶対に踏んではいけない地雷が体調不良の相手に使えない理由です。「ご自愛」とは、「現在は健康な人が、今後も体調を崩さないように予防・留意する」ことを促す言葉です。そのため、すでに病気療養中の方や怪我で休職している同僚、あるいはメールで「風邪を引いて寝込んでおります」と連絡してきた取引先に対して「どうぞご自愛ください」と返信するのは、完全に文脈を履き違えた対応となります。体調不良の相手に対しては、「一日も早いご回復を心よりお祈り申し上げます」や「どうかご無理をなさらず、静養に専念なさってください」といった労りの言葉を選ぶのが正しい気配りです。