亜鉛華単軟膏を取り扱う上で、患者や介護家族が最も頭を悩ませるのが「全く洗い流せない」という問題です。単軟膏基剤に含まれるモクロウは融点が高く、石鹸の泡や温水程度ではびくともしない強固な撥水皮膜を形成します。
ここで絶対に避けるべきなのが、ガーゼやおしりふきシートで力任せにゴシゴシと擦り落とす行為です。赤ちゃんの薄い表皮や、褥瘡周囲の脆弱な皮膚を擦ると、軟膏を除去するどころか角質層を削り取り、皮膚の剥離(スキン-テア)や更なるびらんを誘発してしまいます。
臨床のスキンケア指導で標準とされているのが、オリーブオイルや白色ワセリンを用いた「油で浮かせる除去法」です。手順は極めてシンプルです。
- 薬局等で購入できる日本薬局方オリブ油(または純度の高いベビーオイル、ワセリン)を、軟膏が付着した患部にたっぷりと乗せます。
- 指の腹を使い、擦らず円を描くように数十秒間優しく馴染ませます。油分同士が混ざり合うことで、固着していた単軟膏が自然と乳化し浮き上がってきます。
- 浮き上がった汚れを、柔らかいガーゼやティッシュで「押さえ拭き」するように吸い取ります。
- 最後に微温湯で軽く流すか、泡立てた低刺激石鹸の泡を乗せて洗い流します。
現場の看護師や皮膚・排泄ケア認定看護師(WOCN)の間では、「処置のたびに軟膏を完全に白さが消えるまで落とし切る必要はない」というのが共通見解となっています。便や浸出液で汚染された表層の古い軟膏だけを油分で拭い去り、皮膚に薄く白く残っている基底層はそのまま保護膜として残し、その上から新しい軟膏を塗り重ねる「継ぎ足し塗布」が、最も皮膚ストレスを最小限に抑える方法です。