弥太郎の原動力は、底知れぬ屈辱と怨念にある。土佐藩の最下層である「地下浪人(じげろうにん)」の家に生まれ、身分制度の壁に徹底的に打ちのめされた青年期。父親が村の有力者との酒席の諍いで重傷を負い、その理不尽な処遇を訴え出た弥太郎自身が投獄されたエピソードは、彼の骨の髄に「力なき正義の無価値さ」を刻み込んだ。
牢獄の中で同房の罪人から算術を学んだという逸話は象徴的だ。怒りを無駄に散らすのではなく、数字という冷徹な武器を手に入れた男は、維新の混乱期に驚くべき賭けに出る。廃藩置県に伴い、土佐藩が抱えていた巨額の借金を肩代わりする条件で、藩が所有していた船と商権を格安で引き継いだのだ。藩の負債を巧みに処理しながら、実質的な資産だけを自らの私企業へと移転させる。身分制への復讐は、国家規模の錬金術となって結実した。