縄文人の寿命を科学的に論じるうえで、金字塔とされるのが人口学者・小林和正氏が1967年に発表した縄文人骨の生命表研究です。岡山県の津雲貝塚や愛知県の吉胡貝塚などから出土した235体に及ぶ縄文時代の人骨調査を精緻に分析した結果、算出された出生時平均寿命はおよそ15歳前後という衝撃的な数値でした。この「15歳」というセンセーショナルな数字が一人歩きし、現代の俗説を強固に補強する要因となったのです。
しかし、この調査データの内訳を丹念に読み解くと、極めてシビアな現実が浮き彫りになります。縄文時代の乳幼児死亡率は極めて高く、生まれた子どもの約30%〜40%以上が成人に達する前に命を落としていたと推定されています。火山灰土が多く骨が溶けやすい日本の酸性土壌において、脆弱な子どもの骨は成人の骨よりも残存しにくいため、実際の乳幼児死亡率は発掘された数値以上に高かった可能性すら指摘されています。
小林氏の生命表が真に示す決定的なファクトは、過酷な小児期を耐え抜いた「15歳時点での成人の平均余命」が約16年(男女とも)であったという点です。つまり、15歳の元服・成人を迎えた縄文人は、そこから平均して約16年生き、31歳前後まで生存していたことになります。さらにこれはあくまで「成人の平均値」であり、分布を詳細に見れば、30代半ばから40代、さらには骨の癒合や歯の摩耗状態から50代〜60代に達していたと考えられる縄文人の最高寿命個体も確実に発掘されています。