多くの人を不安に陥れるのが、「これは何か重篤な血管の病気ではないのか」という疑問だ。足の血管がボコボコと浮き出る下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)は広く知られているが、実は手にも同様に手の甲静脈瘤と呼ばれる状態が存在する。ただし、足と手では医学的な緊急度と病態構造が根本から異なる。
下肢静脈瘤は、重力に逆らって血液を心臓へ送り返すための「静脈弁」が壊れ、血液が足元に逆流・鬱滞(うったい)することで生じる進行性の疾患だ。これに対して手の静脈は、腕を心臓より高く上げるだけで自然と血液が戻るため、弁不全による重篤な鬱滞性皮膚炎や潰瘍にまで至るリスクは極めて低い。したがって、痛みがなく単に血管が太く浮いているだけであれば、病気ではなく生理的なハンドベイン現象である場合がほとんどを占める。
しかし、決して油断してはならない手の甲血管浮き出る病気のシグナルも存在する。日本血管外科学会の症例報告や専門医の臨床データを照合すると、以下の徴候が認められる場合は、速やかな専門医(心臓血管外科や循環器内科)の受診が推奨される。
最も警戒すべきは「明確な左右差」と「局所の痛み・熱感」だ。片腕だけに突如として異常な血管の怒張が現れ、腕全体の腫れや重だるさを伴う場合、鎖骨下静脈や深部静脈に血栓が生じる上肢深部静脈血栓症(パジェット・シュレッター症候群など)の疑いが生じる。また、血管の一部が赤く腫れ、触れると硬い芯のようなしこりを感じる場合は「血栓性静脈炎」を発症している可能性がある。さらに、肩こりや腕の痺れと共に手の血行不良・血管浮きが生じているなら、血管や神経が鎖骨周辺で圧迫される「胸郭出口症候群」の精密検査が必要だ。