「椿」という漢字の成り立ちを紐解くと、古代中国と日本における「解釈のねじれ」とも呼べる歴史的事実が存在します。
古代中国の古典『荘子』逍遥遊篇には、「上古に大椿(たいちん)なる者有り、八千歳を以て春と為し、八千歳を以て秋と為す」という一節が登場します。中国において「椿」とは、三万二千年もの時を生きる伝説の長寿巨木(センダン科の落葉高木「チャンチン」など)を指しており、父親の健康や長寿を祈る象徴として崇められていました。
一方、私たちがよく知るツバキ科の「つばき(Camellia japonica)」は、日本や東アジア原産の常緑樹です。日本人は古来、雪の中でも青々とした厚い葉を保ち、春先になると艶やかな大輪の花を咲かせるこの固有樹に強烈な生命力を感じていました。そこで、中世以降の日本人は「春を告げるめでたい木」として、中国の長寿の木を表す「椿」の文字をこの木に割り当てた(国訓とした)とされています。
なお、和名である「つばき」の語源については、葉が厚いことから「厚葉木(あつばき)」、葉に強い光沢があることから「艶葉木(つやばき)」、あるいは光沢を表す古語「つば」に由来するなど、複数の説が国語学者や植物民俗学の間で有力視されています。