ベックの三徴は、1935年にアメリカの心臓外科医クロード・ベック(Claude Schaeffer Beck)によって提唱された臨床所見です。この兆候は、心臓の外側にある心膜腔に液体が急速に貯留する急性心タンポナーデで典型的に観察されます。心臓が外側から強い圧迫を受けることで、以下の3つの特徴的な症状が同時に出現します。
1つ目の徴候は血圧低下です。心嚢液によって心室の拡張期充満が物理的に阻害されるため、1回拍出量が激減し、全身へ血液を送り出せなくなります。外傷性心破裂や大動脈解離に伴う心タンポナーデでは、ショック状態へと急激に進行します。
2つ目は頸静脈怒張です。心臓に血液が戻りにくくなることで右心房圧および中心静脈圧が跳ね上がり、上半身の静脈血がうっ滞します。その結果、座位や半座位にした患者の頸部で静脈が目に見えて張り出します。
3つ目は聴診で確認される心音減弱(心音遠隔)です。心臓の周囲に液体(心嚢液や血液)が介在することで物理的な絶縁壁となり、聴診器に伝わる心音の振動が著しく小さく、遠くから聞こえるような鈍い音に変化します。