読者の記憶に強く刻まれている中学編の凄惨な夏祭り事件の後、佐伯奈々子は家庭環境の急変とともに町を離れ、春日たちとは完全に断絶された日々を送ることになります。結論から述べると、佐伯奈々子の最後は「凄絶なトラウマを乗り越え、現実の日常の中で確固たる幸福を手に入れる」という、極めて前向きで人間的な着地を迎えています。
物語のグランドフィナーレである原作コミックス第11巻(最終話)では、各キャラクターの数年後から10年前後が経過した「現在」が台詞を排した緻密な描写で綴られました。そこに描かれた佐伯さんは、穏やかな日差しが差し込む街角で、自らの子どもを慈しむように抱きかかえる母親としての姿でした。かつて春日や仲村佐和によって引きずり落とされた「底知れぬ狂気」の影は消え去り、そこにあるのは地に足のついた成熟した大人の佇まいです。
破滅的な結末を予想していた初期読者の衝撃をよそに、原作者の押見修造氏は彼女を「思春期の傷を抱えつつも、現実社会を生き抜く強さを手に入れた女性」として描き切りました。これは単なるご都合主義のハッピーエンドではなく、彼女自身が自らの意志で過去の激痛と向き合い、自立したアイデンティティを再構築した結果にほかなりません。