ハ長調を語る上で避けて通れないのが、短調の世界との対比です。楽譜を開いたとき、調号にシャープもフラットもついていない調は、実はハ長調だけではありません。まったく同じ調号を持つ関係を平行調(へいこうちょう)と呼び、ハ長調の平行調にあたるのが「イ短調(A minor / アー・モール)」です。
使っている音はどちらも全く同じ白鍵7音(ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ)ですが、その開始地点(主音)が異なります。
- ハ長調:「ド」を主音として「全・全・半・全・全・全・半」で並ぶ(明るく開放的な響き)
- イ短調:「ラ」を主音として「全・半・全・全・半・全・全」で並ぶ(哀愁を帯びた陰影のある響き)
まったく同一の白鍵を使いながら、どこをベースの「拠点(主音)」とするかだけで、人間の耳が受ける情感は一変します。さらにクラシックや歌謡曲の実践では、イ短調の終止感を強めるために第7音のソを半音上げて「ソ♯」にする「和声的短音階」が多用されます。同じ調号でありながら、光と影のように表裏一体の関係を結ぶこの2つの調性を理解することが、音楽の立体感を掴む決定的な鍵となります。