日本古来の知恵であった恩送りが、国際的なムーブメントとして再定義された契機が「ペイフォワードとの関係」です。2000年に公開された米映画『ペイ・フォワード 可能の王国』(キャサリン・ライアン・ハイド原作、ハーレイ・ジョエル・オスメント主演)では、中学1年生の少年トレバーが社会科の授業で「もし世界を変えたいなら、何をする?」という課題に対し、独自のアイデアを提案します。
そのアイデアこそが、「自分が受けた大きな善意を、直接本人に返すのではなく、3人の別の人物へ送る(Pay it forward)」という試みでした。数学的には、1人が3人へ善意を送り、その3人がさらに3人へと広げていけば、ステップを重ねるごとに善意の輪が指数関数的に爆発します。この善意の連鎖と循環というシンプルな思想は、公開から四半世紀を経た現代でも世界中の非営利活動やコミュニティデザインの基本設計として息づいています。
社会心理学の観点からも、「恩送りが広がる理由」や「恩送りの心理的効果」は明確に実証されています。米カリフォルニア大学などの幸福度調査によると、自分自身のために金銭や時間を使う被験者よりも、他者のために資源を分配した被験者の方が、主観的幸福感(オキシトシンやエンドルフィンの分泌に伴う「ヘルパーズ・ハイ」)が平均して約28%高く持続することが判明しています。善意のバトンを渡す行為は、利他的であると同時に、送り手自身のメンタルヘルスを劇的に安定させる自己充足的なメカニズムを備えているのです。